今週のJC:Primary Prevention Cohort Study of the Japan Lipid Intervention Trial (J-LIT)

今週のJCは一昔前に起こった論争「コレステロールは高めが良い⁉」に関するもの。文献自体は古く2002年のモノですが、スタチンの研究を行っている大学院のためにも紹介する。

論争の始まりは『日本脂質栄養学会(コレステロール関係ない派)』が

・動脈硬化にLDL-Cが関与するのはわずか。低くても心臓病などの予防にならない。

・総C、LDL-Cが異常に高い遺伝性高C血症の方とそうでない方は全く予後が違う。

・遺伝性高C血症でない方の予後は総C、LDL-Cが高い方が長生きである。

(・さらに、コレステロールが低いと早死するや癌になるという主張も含まれた)

という主張をガイドラインに組み込み、

それに反対する形で、『日本動脈硬化学会・日本循環器学会など(コレステロール下げる派)』が

・動脈硬化の初期にはLDL-Cが沈着し、LDL-Cを低下させると動脈硬化病変の改善がある。

・動脈硬化を妨ぎ脳血管障害・心筋梗塞の予防になる。

・コレステロール140mg/dl以上を高LDL-C血症と診断。これは高齢者でも女性でも同様。

という主張を述べた。

これら互いの主張のベースとなる一研究がJ-LIT(Japan Lipid Intervention Trial)である。

日本脂質栄養学会は論文中のTable 5(Relative Risk of Death and Serum Lipid Concentrations During Treatment of Hypercholesterolemia With Low-Dose Simvastatin)中の総コレステロールが高くても低くても死亡の相対リスクは高くなる(Jカーブ現象)ことや、Table 6(Causes of Death and Total Cholesterol (TC) Concentration of Patients Treated With Low-Dose Simvastatin for 6-Year)中の悪性腫瘍のハイリスクをその根拠に用いた。

対して、日本動脈硬化学会は論文中のTable 4(Risk of Coronary Events and Lipids Concentration During the 6-Year Treatment Study of Low-Dose Simvastatin)中の総コレステロールとLDL-C高値が冠血管イベントと相関を認めることをその根拠に用いた。

残念ながら、J-LITは比較対象群が無く、無治療群を設定しなかったことや悪性腫瘍の詳細な検査を行っていないなどの背景から、コレステロールが悪性腫瘍のハイリスクとなるという因果関係を示すものでは無いと考えられている。

つまり、現在では低LDL-Cを始めとして高HDL-C・低nonHDL-C・低TGが基本的な治療戦略となっている。現在でも高齢者に対する脂質異常症の治療方針に関して定まらない部分も残っているが、その当時2000年前半の生活習慣病の治療現場は想像を絶する混沌とした雰囲気だったのだろうと思う。

帝京大学医学部 移植免疫・腫瘍免疫研究室

夢と希望をもって誰でも(出身・経歴を問わず)斬新な研究ができるよう、この研究室の俗称を“どらえもんラボ”と名付けました。実験をしたい、そして新しいことを発見したいという夢がありながら、なかなかその場が見つからない、そのような方は是非“どらえもんラボ”にお立ち寄りください。そして、実験や討論を一緒にやりましょう。

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